人格社の旗揚げ公演。
進学、上京、一人暮らし、精神疾患、帰京、コロナウイルスの流行による実家での隔離生活、高校演劇への追憶と執着などを経て、着想を得たモチーフを戯曲に散りばめた。舞台上では劇団員たちの演技や演出がそれらを彩る。近代私小説を模した書き割りに、不条理ギャグの要素を持ち込む。軽妙な台詞回しで繰り広げられるシニカルなユーモアの間に割り込む形で切実な孤独を鮮烈に描き出した。
<あらすじ>
ハードボイルドに憧れるOLハタダは、今日も雨の中車を走らせる。雨の日に車に乗っていると安心する。車は私を雨から守ってくれる。無気力な生活を引きずっている男、ヤブサカは、常に他人にものさしを向けながら相手との距離を測って生きていた。それでも彼は、地球の外に人類のメッセージを受け取った者がいるはずだと信じている。一方、少年はお嬢さんに「警部殿」というあだ名をつけられ、仲を深めつつあった。
これは、寂しさだけが共通の言語である彼らにとっての「安住の地」をめぐる物語である。
何かとやかましい隣人の観察を続ける少年。奇妙な隣人のヤブサカの生活は完全に社会から浮いた存在であったが、ヤブサカの家にやってきたハタダがヤブサカに傘で殴り掛かるのを目撃し、彼らは正気の沙汰ではないことを悟る。
少年は目の前で起きたことを記述し、その勢いで大家の老婆に協力を依頼するが相手にされない。しかし、話を聞いていたお嬢さんに観察日記を気に入られ、続きを書くことに。
一方のヤブサカは、激しい戦闘を繰り広げたハタダと何事もなかったかのように対話する。ヤブサカはハードボイルドを標榜とするOL・ハタダの他の一面を知っている。そこには奇妙な信頼関係があった。警部殿に観察されるヤブサカだが、彼もまた警部殿を観察している様子である。
ヤブサカ、ヤブサカを観察する少年、ヤブサカを観察する少年を面白がっているお嬢さん。この3人が一堂に会したとき、彼らのアパートに異変が起きる。
ハタダは大嫌いな地元に帰る。「ハードボイルドは感傷に浸ったりしない」そう自らに言い聞かせていたが、高校の先輩の墓参りを機に、内に秘める感傷を思い出す。